もののインターネット (IoT: Internet of Things)、深層学習、Beyond 5G、さらには量子コンピューティングなど、社会の在り方を変える新しい計算機技術が着目されていますが、これらはインターネットにより膨大な数のコンピュータが接続されていることを前提としています。また、頻発する災害時におけるSNS通信、コロナウィルスによるテレワーク・オンライン授業など利用シーンが拡大し、インフラとしてのインターネットの役割が高まっています。これに対して、長谷川研究室では、2013年の発足以来、将来インターネットの在り方について模索し、インターネットを支える基盤技術を研究しています。特に、エッジコンピューティング時代のインターネットを対象として、セキュリティ・プライバシー、超高速パケット転送、情報指向ネットワーキングの研究を進めています。

第1の技術は、プライバシーやセキュリティを保護する技術です。IoTや深層学習をベースとする自動運転などのサービスでは、GAFAが採用しているクラウドコンピューティングが主流ですが、クラウドにユーザのプライバシーが漏洩することが問題になります。これに対して、セキュアな分散機械学習アーキテクチャや、プライバシー保護可能なインターネットを研究しています。

第2の技術は、情報指向ネットワーキングを対象とした、超高速なパケット転送技術です。インターネットの誕生以来、パケット転送を行うルータの高速化は、常に、研究されている重要な技術です。これに対して、マルチコアCPUを用いたソフトウェアルータにおいて、並列性を活用して100Gbpsのパケット転送速度を実現しました。今後は、プログラム可能なP4プログラマブルスイッチを用いて、1Tbpsのパケット転送速度を目指しています。さらに、高速性に加えて、メモリ量の削減に向けて、機械学習の適用を始めました。

第3の技術は、5G時代の経路制御技術です。エッジコンピューティングでは、膨大な数のセンサなどのIoTデバイスが、5Gネットワークを介してインターネットに接続されます。従来のIPアドレスを用いた経路制御では、IoTデバイスの移動の度にIPアドレスを再登録する必要があり、無駄な経路制御が行われます。これに対して、情報の名前を宛先とする情報指向ネットワーキングを活用して、5Gネットワークの経路制御を革新する研究を進めています。

さらに、災害時における緊急通信・SNS通信、プライバシーを保護する位置ベースサービス、画像認識を活用した人物の追跡などのサービスのプロトタイプを実装することで、研究開発した技術を実証しています。アーキテクチャの実現には、多くの課題があり、卒論では以下の課題から一つを選択します。研究全体は、後期博士課程進学希望のM2学生が管理しています。

新4年生の卒業論文の候補は、以下です。

1. エッジコンピューティング時代の深層学習サービス

もののインターネット (Internet of Things) の普及につれて、街角のいたるところに設置されたカメラやセンサーが収集したデータを活用した、深層学習サービスが期待されています。一方、カメラで撮影した画像を用いて待ち合わせ場所に、友人が待っているかを調べる深層学習サービスでは、撮影した画像をクラウドに送信して、クラウドが提供する深層学習ソフトウェアで認識することが一般的です。撮影画像のクラウドへの送信に時間がかかるため、図1(a)のように、要求した人に近いエッジのルータで画像認識を実行することで応答時間が短縮されるため、エッジコンピューティングが近年、盛んに研究されています。

しかしながら、どちらで画像認識を実行しても、撮影画像がクラウド、エッジルータに送られるため、撮影された人物のプライバシーが漏洩する深刻な問題があります。これに対して、図1(b)のように、深層学習アルゴリズムが複数の層から構成されることを活用して、撮影人物のプライバシーを漏らさないエッジコンピューティングアーキテチャを開発します。図では、畳み込み層と全結合層の2層からなる深層学習を、2つに分割して、カメラとエッジルータで実行しています。エッジルータは、畳み込み層の実行結果を知るだけで、撮影画像を知ることはできません。このようにしてプライバシーの漏洩を防ぎます。

アーキテクチャの実現には、多くの課題があり、卒論では以下の課題から一つを選択します。研究全体は、後期博士課程進学希望のM2学生が管理しています。

  • カメラが攻撃者に乗っ取られていないことを検証するプログラム検証技術
  • 分割しか深層学習モデルから撮影画像や教師データの画像を漏洩させない技術
  • 5Gネットワークでアーキテクチャを実装、検証するテストベッド技術

2. セキュアな分散機械学習アーキテクチャ

クライアントの端末で機械学習を分散して行うことで、クラウドのサーバに教師データを観測させない分散学習が期待されています。これにより教師データがクラウドなどに漏洩することを防げます。 例えば、Google Keyboard(Gboard)などの連邦学習(Federated Learning)では、クライアントがサーバから受領したモデルに対して、自身の教師データを用いて学習したモデルの差分をサーバに返送することで、サーバが教師データを観測することを避けています。

しかしながら、連邦学習では、教師データ自身が漏洩することを防御しますが、学習結果の差分モデルからプライバシーが漏洩することを防御出来ません。 これに対して、匿名化技術と高度信頼実行環境(Trusted Execution Environment:TEE)を活用して、差分モデルからプライバシーが漏洩しない連邦学習アーキテクチャを開発します。例えば、クライアントの差分モデルに雑音を付加し、ネットワーク内のノードで安全に差分モデルを加算する手法を検討しています。併せて、開発したアーキテクチャを検証するため、連邦学習から教師データを復元する攻撃手法も研究します。

アーキテクチャの実現には、多くの課題があり、卒論では以下の課題から一つを選択します。

  • 差分モデルのシャッフルを活用した連邦学習アーキテクチャ
  • 連邦学習における差分モデルからの教師データの復元
プライバシー

3. プライバシー

インターネットの利便性とプライバシーの懸念は表裏一体です。映画「エネミー・オブ・アメリカ」や「スノーデン」の世界が真実をどの程度反映しているのかは定かではありませんが、インターネット上の通信が検閲されている国があるのは事実です。通信の秘密が法律によって守られている日本においても、プライバシー情報漏洩のリスクが無い訳ではありません。例えば、オンライン地図アプリケーションあるいは位置情報ゲームを利用するには、端末の位置をプロバイダーに提供する必要があり、そこから自宅や勤務地のみならず、趣味、信条、病歴などが漏洩するリスクが指摘されています。また、攻撃者にパケットが盗聴された場合は、例え通信が暗号化されていたとしても、IPアドレスなど通信に使う識別子からどのようなサービスを利用しているかが分かり、フローの長さなどからどのようなコンテンツを閲覧しているか推測することが可能です。匿名ネットワークの1つであるTor (The Onion Router) ネットワーク上にもプライバシーを明らかにすることを目的とした攻撃者の存在が指摘されており、インターネット上のプライバシーは、大きな課題です。

この課題に対して、現在までに、信頼できない匿名化ルーターを経由した場合でも位置情報に関するプライバシーの漏洩を最小化するネットワークアーキテクチャー、情報指向ネットワーキングを用いたTorネットワーク上の攻撃者に対して安全なネットワークアーキテクチャー、盗聴されたパケットからユーザーが視聴しているビデオコンテンツを推測する攻撃の分析などに取り組んできました。位置情報のプライバシー保護アーキテクチャーは、ACM SIGCOMMがサポートする会議ACM ICNで発表しています。

インターネット上のプライバシーには、まだ多くの課題があり、卒論では、例えば以下の課題に取り組みます。

  • オンラインマップや位置情報ゲームを安全に利用するためのネットワークアーキテクチャーの設計と実証
  • パケット盗聴に対してもユーザーの動画サイト視聴プライバシーが漏洩しないネットワークアーキテクチャーの設計と実証

4. 高性能ルータアーキテクチャ

インターネットで最も重要で難しい技術は、高速なルータを開発することです。カリフォルニア大学バークレイ校が、UNIXワークステーションのBSDオペレーティングシステム上にTCP/IPソフトウェアを開発して以来、高速化が進められてきました。パケット転送速度も、当時のEthernetの速度の10Mビット/秒からTビット/秒まで高速化されています。現在のTビット/秒クラスの商用の高速ルータはハードウェアルータと呼ばれ、高速なメモリ装置TCAMやASICを用いて、ある意味力づくで高速化してきましたが、高い消費電力が問題となっています。これに対して、市販のPCサーバをクラスタにして、複数のCPUコアを用いて並列に処理することで、高いパケット転送速度と低消費電力を両立するソフトウェアルータが注目されています。

研究室発足以来、情報指向ネットワーキング用のソフトウェアルータの高速化を研究しています。これまでに、低速なメモリ装置DRAMでの待ちを隠蔽するプリフェッチ技術、軽量なキャッシュ処理技術を開発し、1台のPCで80Gビット/秒のパケット転送速度を実現しました。発表された論文の中では、1台のPCで世界最高速を達成しています。

今後は、PCクラスタを用いて、Tビット/秒の実現を目指しています。現在、博士を取得した学生を引き継いで、M2の学生が研究をリードしています。Tビット/秒の多くの課題があり、卒論では以下の課題から一つを選択します。

  • 学習型インデックスを活用した経路表のコンパクト化
  • 複数CPUの負荷を均一化するロードバランス技術
  • プログラマブルスイッチP4を用いたプロトタイプ実装

5. 災害通信での情報指向ネットワーキングの活用

昨今、巨大地震の発生や台風や豪雨による被害が大きくなるなど、災害の激甚化が懸念されており、政府レベルでもその対応が検討されています。このような大規模災害において、正確な情報を適切な担当者に迅速に転送することが、効率的な災害対応への鍵です。これに対して、研究室では1) ソーシャルメディア上の情報の活用、2) ボランティアを巻き込んだ災害通信システム、3) ネットワークが分断された状況でも通信可能なネットワークアーキテクチャの3つの点を備えた災害対応アーキテクチャの実現に取り組んでいます。

  1. ソーシャルメディアの応用については、ソーシャルメディア上の情報がフリーフォームテキストで記述されていることに起因して情報の選別が困難であること、また、フェイクやデマが多いことが課題です。これに対して、実際の災害時のツイートを解析した結果、「救助要請」などのキーワードに基づく選別は不可能であることが分かりました。これに対して、機械学習を用い、災害ツイートから重要な情報を抽出するモデルの設計に取り組んでいます。
  2. ボランティアの獲得には、災害時にボランティアのプライバシーを漏洩することなく、ボランティア登録の認証を可能にすることが、多くのボランティアを獲得する上で重要な課題です。日本と同じくハリケーンの被害が多いアメリカでは、ボランティアを積極的に巻き込んだ災害対応が検討されていますが、ボランティア登録に関しては議論されていないのが現状です。これに対して、共同研究チームと連携し、生体情報とプライバシー漏洩の関係を調査しながら、安全な生体認証の設計に取り組んでいます。
  3. 災害時にネットワークが分断された場合、つまり、携帯電話やインターネットが使えない状況でも、被災者、ボランティア、消防士などの救助活動者が、安全に通信することを可能にすることが課題です。これに対して、情報指向ネットワーキングを活用し、対障害性の高いメッセージ配信アーキテクチャを設計に取り組んでいます。

これらのアーキテクチャをまとめた論文は、2019年にICT技術を用いた災害対応に関する国際会議で最優秀論文賞を獲得しています。しかし、災害通信には、確実性が必要であり、まだ以下に挙げるような研究の余地が残っています。卒論ではこれらの課題から選択して取り組んでもらうことを考えています。

  • 機械学習を活用した救助要請ツイート抽出
  • ブロックチェーンなどを用いた信頼できるボランティアの安全な管理方法
  • 分断されたネットワーク上で情報指向ネットワーキングを活用した救援活動グループ宛のセキュアなメッセージ配信

6. Beyond 5G時代のインターネットアーキテクチャ

携帯ネットワークが5G、さらには6Gネットワークに進化するにつれて、帯域が増加して通信速度が速くなるだけでなく、これまでインターネットに収容されてこなかったセンサなどのデバイスが収容されます。 デバイス数は現状のインターネットの100~1000倍以上となることが予想されていて、膨大な数のデバイス宛の経路制御をどのように行うかが、近い将来問題となります。

現在の4Gネットワークでは、図4(a)のように、スマートフォンなどのデバイスが他の基地局へ移動するたびに、クラウドにあるホームゲートウェイと呼ばれる位置管理サーバに現在位置を登録します。 センサーなど収容するデバイス数が増加すると、ホームゲートウェイによる集中的な位置管理は破綻することが予想されます。 これに対して、ルータが移動するデバイスが送信するパケットを観測することで、デバイスの位置をオンラインで学習する経路制御アーキテクチャを検討しています。 学習型インデックスを採用して経路表をコンパクトにし、位置登録のメッセージを減少させることで、膨大な数の移動するデバイスを管理することを可能とします。

まず第1ステップとして、学習型インデックスの代わりに、ハッシュを応用したブルームフィルタ―を用いた経路制御アーキテクチャを提案し、2019年には電子情報通信学会通信ソサイティ論文賞を受賞しました。

アーキテクチャの実現には、多くの課題があり、卒論では以下の課題から一つを選択します。

  • 学習型インデックスの移動管理プロトコルへの適用
  • ルータ間での学習モデル交換をベースにした新しい移動管理プロトコルの設計
  • 設計したプロトコルの情報指向ネットワーキングへの適用と実証

最近の卒業論文

最近の研究成果デモ

4月: B4研究室配属

例年4月に開催される研究室紹介や、3年次のゼミナールをもとに所属したい研究室を選択します。

5月: 輪講

秋からの本格的な卒論に向けて、最先端の研究成果を学ぶため、一流の論文誌、国際会議の論文を読みます。 教養課程以来の英語になります。

6月: 院試対策

長谷川研究室には、院試の過去問や歴代の先輩が作成した過去問の解答を豊富に用意しています。また、週に1,2回、院試の記憶の新しいM1の先輩が勉強会を開催し、B4の院試合格を目指して指導しております。

7月: 院試

進学を希望するB4は院試を受験します。学部4年間の集大成を発揮します。

8月: 院試お疲れ様会

院試が終わるとここまでの労をねぎらい、ビアガーデンでお疲れ様会を開催します。これから本格的に始まる研究活動に打ち込めるようにリフレッシュします。

9月: 研究室旅行

長谷川研究室では年に一度秋頃に一泊二日で研究室旅行へ行きます。2019年度は岐阜でした。1日目は白川郷を散策後、奥飛騨にある旅館に泊まり、2日目は奥飛騨鍾乳洞や下呂温泉へ行きました。世界遺産を見て回ったり、旅館でおいしいご飯をいただいたり、温泉に浸かったりして英気を養いました。

10月: 卒論テーマ決め

長谷川研究室では、幅広い卒論テーマを用意していますので、その中から選択します。大学院に進学する場合は多くの場合、ここで決定したテーマを継続することになります。自分で何がしたいかをよく考えしっかり選びましょう。

12月: 忘年会

年の瀬が迫る頃に忘年会を開催します。おいしいものを食べて一年の労をねぎらいます。

2月: 卒論・修論発表

修士の方は2~3年かけて行ってきた研究の集大成を発表します。また、B4にとっても多くの方が研究室外で行う初めての発表となります。

3月: 学会発表

卒論の研究成果をまとめて、学会の総合大会で発表します。4年生にとっては、新幹線や航空機を利用した初めての出張になります。運悪く、総合大会が大阪近辺で開催されてしまうこともあります。

長谷川研究室では、最近カーペットの張替え、大規模な研究室の模様替えを行い、研究室の雰囲気が一新されました。
学生に与えられるデスクも広々としており各人が好みのスタイルで研究環境を整えています。 モニターは多くの学生に2枚程渡され、PCも既にあるものなら自由に利用でき、新しく買い換えるタイミングで好きなスペックのものを用意していただけます。
研究室のサーバ周りも高い処理能力を持った計算機が多く、研究でのシミュレーションから実装までストレスなく行うことができます。
休憩スペースにはソファーもあり、研究の合間に休むことができます。 購買や冷蔵庫、電機ポットもあるので軽食を取ることもできます。




研究室全体

研究室全体は以下の写真のような雰囲気です。机同士のスペースを十分に確保し、広々とした空間になっています。
test2 - Spherical Image - RICOH THETA
test - Spherical Image - RICOH THETA

学生のデスク

研究室の学生のデスクの一例です。PCの周辺機器を置いてもノートを開くスペースが有り、キャビネットも支給されるので収容スペースにも困りません。